タイトルは石川啄木が1910年に『硝子窓』の中で発した言葉・・・・・・・・といっても石川啄木のこの小編を読んだわけではなく、松山巌が『
住み家殺人事件 建築論ノート』(みすず書房)の中で引いていてひっかかった言葉。

近代以降の“知的な仕事”が“手仕事”を奪うことにより住宅からも“静かで秩序をもった生活の場”が奪われていき、“利便さを守るために自閉化した”住宅と“私生活さえ丸はだか”にされた住宅が増えてきてしまった。“未来が見えそうで見えない自閉化した若者たちの心理を映す透明な壁”として当時の新素材であり“透明でありながら空気や声や匂いを遮断する”板ガラスを重ねとったというくだり。
また幕末から明治初期の日本における“プライバシーの欠けているような住まいから、プライバシーを守っていた”日本人の“礼儀作法”についてのくだりなど、エッセイとして広く一般に読まれるべき本です。少々タイトルがやりすぎなのと、書店における書棚のチョイスが難しそうなところで損をしている気はします。(松山巌さん、東京芸大の建築科出身で『
乱歩と東京』、『
うわさの遠近法』、『
建築はほほえむ』等の著作で有名な評論家・小説家)